事例紹介

オフィスの概念から疑ってみよう。

コロナ禍をきっかけに、オフィスをリニューアルすることになったという株式会社クオーターバックの山田さん。coloursとプロジェクトを共にすることで、最初に想定していたものとはいい意味で全く違うものになったと仰います。私たちが関わることで「企業」にどんな変化が起こったのか、coloursの奥野が伺いました。

client profile

株式会社クオーターバック。「つながりのデザイン」をブランドコンセプトに、企業の理念策定や理念共有のためのワークショップ、Webサイトや映像などのコミュニケーション開発を行う浅草・今戸のリレーションデザインカンパニー。

本当の目的を果たすために、オーダーにはない「移転」を
提案することから始まったプロジェクト。

奥野:漠然とした質問になりますが、プロジェクト全体を振り返ってみていかがでしょうか。
山田:そうですね、プロジェクトを依頼した最初の時点から考えると、まったく違ったものが出来上がったなと思います。最初は、2フロアあったオフィスを1フロアにして、残った部分のリニューアルをお願いしていましたから…。まさか移転をするなんて当時はこれっぽっちも思っていませんでした。
奥野:そうでしたね(笑)。最初の提案のときに、具体的なプランを持っていかずに「移転をしましょう」と言ったときは、こんな僕でも少し勇気がいりました。でも、以前のオフィスでは、山田さんから伺っていたプロジェクトのポイント「コストの削減」と「チャンスの拡大」のうち、チャンスの拡大がどうしても思い描けなかった…。だから思い切って「移転」をするところから提案しました。
山田:おかげで今の浅草・今戸の拠点があると思うと、いい提案をいただいたなと思います。それからすぐに、エリア選定、物件選びからお世話になりましたが、道中を振り返るとなかなか濃い思い出がよみがえります。一般的なオフィスビルで働いていた僕にとっては、リノベーション前の倉庫物件を見て歩くだけでも刺激的でドキドキしました。
奥野:物件探しは楽しかったですね。今の物件を見つけたとき、ここなら「コストを削減」しつつ「チャンスの拡大」をしていけると確信しました。出会いを演出しやすい一階でしたし、浅草という立地もよかった。空間の広がりも良くて、これならコンテンツのアイデアにも幅を持たせやすいぞと思いましたね。

見つかったのは、浅草・今戸で元々段ボール倉庫として使われていた物件。物件の選定基準として設けていたのは、「チャンスの拡大」が見込める一階であることと、空間デザインに幅が持たせられる天井の高い空間であること。独自の文化が色濃く残る東東京エリアを探してたどり着いた物件です。

空間のコンセプトは「つながりのデザインの体現」。
自社ブランドに自然と共感できる場所を創りたかった。

奥野:僕は、僕らにプロジェクトを依頼する方々にはよく「どんな明日を過ごしたいと思っていますか?」と質問するんですが、山田さんは少し変わった観点でしたね。
山田:そうですね。「日々、そこで過ごすことでみんなが自社のブランドコンセプトである「つながりのデザイン。」を体感できるような、そんな場所にしたい」と答えたと思います。coloursの仕事はずっと見ていましたから、放っておいてもカッコいい空間に仕上げてくれるのはわかっていました。だから見た目をデザインするのではなくて、自社ブランドの体感や共感をデザインしてほしいとリクエストしました。僕は、空間のコンセプトに「つながりのデザインの体現」という言葉を置いて、あとはそれをcoloursに空間として翻訳してもらうことにしたんです。

完成したのは「SNAP」という、飲食店や物販スペースを併設する複合的な拠点。オフィススペースは最小限に抑え、大部分がまちに開かれた空間デザインになっています。山田さんたちはこの場所を自社のブランドコンセプト「つながりのデザイン。」を体現するブランドルームとして運営しています。

アウトプットのクオリティはプロセスのクオリティから。
見た目のデザインのその先にある価値をめざして。

奥野:社員のみんなが「つながりのデザイン。」を体感できる場所と聞いて、僕が最初に思ったのは、山田さんの言葉だけを拾っていってもこのプロジェクトは成功しないな…ということだったんです。そこで、二十数名にも及ぶ全社員の声を聴くことからプランニングをスタートしました。通常、施主というのはひとりもしくは数人ですから、coloursにとってはそれも大きな挑戦になりましたね。
山田:全社員にアンケートを取っていただくところから、数十回にも及ぶ打ち合わせと、プランニングにすごい時間をかけていただいたな…というのが率直な感想です。僕もひとりの経営者として、ビジネスの構造が心配になるくらい手をかけていただいたなと(笑)。

奥野:ご心配ありがとうございます(笑)。でも、クライアントの想いを翻訳することってすぐにはできないんです。それこそ、何度も打ち合わせを重ねて、ときには一緒に視察旅行に行ったりして、その人がどんな想いを持って、どんな明日を過ごしたいのかを理解していきます。技術を持たないクライアントに代わって空間を創るわけですから、想いを重ねるための時間はしっかり取る。僕はそれが最終的な満足度に大きく影響を与えると思っています。僕らの仕事をWebサイトなどで見て来られる方には驚かれますが、アウトプットのクオリティと同じくらい、プロセスのクオリティにも気を配っているのが僕たちcoloursです。その分、お待たせしてしまうことも多いのですが、かけた時間を後悔させるような仕事は、今まで一度もないつもりです。

最終的に出来上がった「SNAP」の全体像をイラスト化したもの。「つながりのデザイン。」をコンセプトに、社員のさまざまな声がコンテンツとして翻訳されています。既存のつながりをより深めることと、偶然の出会いを生み出すことをテーマに、いろいろな仕掛けを施しました。

空間が起こす現象を見て、未来に対してワクワクできる。
企業と空間デザインの可能性を感じるプロジェクト。

奥野:山田さんが一番お気に入りの場所はどこですか?
山田:むずかしいことを聞きますね(笑)。まだコレという場所はないのですが、毎日のように誰かが訪ねてくることだったり、ひょんなきっかけからコトが起こる「現象」のほうに僕は関心があります。完成してからというもの、出社する社員も多くなりましたし、楽しそう
な顔をしているのをよくみかけます。実利としてこの空間によって業績が上がったというのは、まだはっきりとしたデータが取れていないのですが、僕らのブランドコンセプト「つながりのデザイン。」を体現する場所ができたことで、人との出会いは明らかに増えましたし、コンセプトがわかりやすくなったおかげで、採用力が上がったり、興味を持ってくれる人が増えることは明白です。かかったお金は決して安くはありませんでしたが、未来に対してワクワクできるかけがえのないものを創ってもらったという気がしますね。

奥野:山田さん、ありがとうございます。僕らのミッションは「明日をもっとcolourfulに」ですから、空間が出来上がってからどのような明日が展開されているか気になっていたところです。このSNAPの使い道はまだまだこれからということでしょうから、暖炉の火を見ながらお酒を飲んだり、バーベキューをして盛り上がりたいですね。
山田:(笑)。あんまり遊び過ぎて経営が傾かないようにがんばります。